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バッハのフルートソナタ補筆完成版
2023/11/06
エクリチュールを何年か勉強してきて、そんな経験をフルに生かした仕事がついに日本で形になるようです!
フラウト・トラヴェルソの奥村みゆきさんは、ヨーロッパで活躍するフルート奏者の方です。奥村さんは、バッハの「フルートとオブリガードチェンバロのためのソナタ イ長調 BWV1032」という、途中が欠損してしまった曲を吹くにあたって、様々な版を試したそうですが、どれもいまいちでしっくりこなかったそうです。
そして、納得のいく補筆完成版を演奏したい、ということで、私にその仕事が回ってきました。
もちろん、これは簡単な仕事ではありません。私自身、バッハは勉強してきましたが、バッハの補筆完成というのは未知の世界でした。そこで、この仕事をしてみようという挑戦の意欲がわきました。
この曲は、「二台のチェンバロのための協奏曲 ハ短調 BWV1062」の余白に書かれています。ところが、途中で「協奏曲」のほうのみが残り、「フルートソナタ」のほうが削り取られてしまっているのです。
そこで、ごくわずかに切り取られた線の上に飛び出たタイのような記号を頼りに、大体のバッハの構成感を導き出しました。
また、欠損したページ数から、補筆すべき小節数なども、ある程度割り出すことができます。
このように、バッハが一体どのように書いていたのか、という予想をしつつ、他のフルートソナタもすべて研究しなおしました。
すると、面白いことがわかってきました。バッハは思ったより自由で、遊び心に満ち溢れていたのです。
同じことを繰り返すのが普通と思うところも、少しずつ変えてきたり、なめらかな旋律をあえて崩して歌わせてみたり、というところが随所に見られました。特に顕著だったのが「フルートソナタ ロ短調 BWV1030」です。
ならば、バッハを正確に模倣しようとするのではなく、「自由に遊び心を持って書いたほうがよりバッハらしくなる」という結論に達しました。
そこで、私自身がバッハになったつもりで曲全体をはじめから写し直し、バッハの手癖のようなものを身に着けた状態で好き勝手に書く、という手法をとることにしました。
バッハらしい挑戦を随所に埋め込んだ、そんな補筆となっています。ぜひ聞きに来てください!